ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『不器用なキミと背中の事情』楓木まめ

サラリーマンの新田は肩にできた脂肪種を切除する手術を受ける。手術は無事成功したものの、傷の消毒など一人でできないことがある。そこで期間限定、住み込みで傷の手当を会社の後輩・鮎川にお願いしてみると、ある条件を出されて……。 

収録作品:「背中の事情」「距離の温度」「アナザーワールド」「(描き下ろし)不器用なキミと背中の事情」、あとがき、電子版特典(イラスト&4コママンガ)

感想:

初読の作家さんです。すっきりした好みの絵柄に惹かれて読んでみたところ、当たり。いずれもメイン登場人物2人に焦点を絞ってのシンプルなお話ばかりですが、キャラクター設定や関係性の描き方が丁寧で好感が持てます。ストーリー展開もテンポ良くて満足。

「背中の事情」は前・中・後編と、この本の中では一番ボリュームのある作品。面倒見が良くお人好しで不器用で最近彼女に振られた新田と、飄々とマイペースで最近彼氏に振られた後輩鮎川。背中の手術痕の消毒を鮎川に頼んだ新田に出された条件は、「背中を抱きしめて眠らせて欲しい」というもの。同居ものとしては割とあるパターンかと思いますが、これがなかなか色っぽい展開にならない。会社で机を並べていながら互いのことをろくに知らなかった2人が、一緒に暮らすことで相手の良い部分を知り、居心地の良さを感じるようになる過程がある意味地味に、丁寧に積み重ねられていきます。食事の嗜好の合う相手と囲む食卓の楽しさや、仕事へ向かう姿勢、普段見せない強さ弱さなど、感情の表れやすい新田の一挙一動も微笑ましいですし、ポーカーフェイスな鮎川がたまに見せる感情の動きも可愛い。丁寧に描かれたオーソドックスな話っていいなあとしみじみ感じてしまいました。本編はキス止まりでちょっと残念でしたが、描き下ろし番外編がサービスエピソードです。しっかりめの濡れ場に加え、なんだかんだと年下ヘタレ攻としっかり者の年上受に収まりつつあるのがまた良かったです。

「距離の温度」は、従姉妹の息子(10歳年下)への想いを押し殺していたところ、完全に見透かされていた可愛いおじさんの話です。百合のように可愛い2人ですが、4年後留学先から帰ってきたユキちゃんの背がすっかり伸びて攻攻しくなっているのは喜ばしかったです。

アナザーワールド」は「背中の事情」のスピンオフで、鮎川の同僚・大河と、その先輩の弟・カズの話。女の子相手にセックスできない悩みを持つカズが、大河に相談したことでゲイの可能性に思い当たるわけですが、そこからの性春っぽい懊悩ぶりがまた可愛らしい。本番自体はありませんが、大河とのキスを思い出して一人で昂ぶってみたり、さらには出会い系で知り合ったオネエ言葉の写真家にナースコスプレさせられるサービスシーンまでご披露いただき満足でした。