ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『トーキョートレイン』木下けい子

新宿でNO.2ホストの大吉は、大学受験当日に体調不良になり、人生に絶望していた自分を助けてくれた駅員の来生に再会する。まあまあしょぼくれたおっさんになっていた来生を今度は励まそうとするが…。

収録作品:「吉祥寺の戦士」「練馬の王子様」「用賀の騎士」「秋葉原狂想曲」「新宿ダーリン」「(番外)東京レールウェイ」

感想:

東京の電車をテーマにしたオムニバス短編集です。こういうオムニバスってBLではあまり見ないので新鮮でした。木下けい子さんの作品は「ほのぼのラブ系」「めんどくさい人がドロドロぐだぐだする系」に大きく二分されると思うのですが、本作品集は前者。全体的に軽いコメディタッチですが、要所要所でシリアスな感情描写が織り込まれメリハリきいています。

  • 「吉祥寺の戦士」:お気楽大学生が始発電車で見かけたパン職人見習いに惹かれる恋の始まりほのぼの系。
  • 「練馬の王子様」「用賀の騎士」:世田谷にライバル意識を持つ東京生まれのおっとり練馬区民と、都会に憧れて頑張った挙句洗練された地方出身者。イケメンがどんどん情けなくなるパターン。
  • 秋葉原狂想曲」:秋葉原勤務のサラリーマンが、盗撮被害に遭っている女子高生を助けた、と思ったらまさかの女装コスプレ男子。大人×子供(※ショタには非ず)、普通のリーマンとコミュ障オタク。
  • 「新宿ダーリン」:くたびれた駅員と、かつて彼の言葉に救われた元受験生(現ホスト)。年下攻。

他の作品はそこまでぐっとはこなかったのですが、「練馬の王子様」「用賀の騎士」がとにかくツボで、この2作品だけで買った甲斐あった!この2人で一冊読みたいくらいだった!と大興奮。練馬(という23区ではあまりいけてない印象の漂う区)の実家から通勤している東条は、イケメンでソツなく洗練された振る舞いができ世田谷住まいの岡田にコンプレックスを刺激され、一方東北出身の岡田は都会に馴染もうと洗練された振る舞いを身につけ背伸びして用賀のマンションに住んでいるゆえに自然体の東条に惹かれる。このキャラクター設定とそれぞれの抱えるコンプレックス、リアリティがあって身につまされる気がしました。

一皮むけば、鈍臭そうな東条には自然体天然キャラゆえの芯の強さがあり、スマートなイケメン岡田は泥臭くガッツに溢れるアプローチをしつつ惚れた弱みで情けなく格好悪い姿を晒していく。木下さんは恋愛のぐずぐずみっともないところを描くのがお上手だなあと前から思っているので、岡田の描写は本領発揮といったところでしょうか。

ちなみに多少の濡れ場はありますが、これは毎度安定の「色気なし」です。普段の(特に攻めの)ちょっとした表情なんかははっとするほど色っぽかったりするのに、濡れ場となると基本色気ゼロなのは不思議です。わたしにとってはそれを補って余りある魅力を持つ作家さんではありますが。

 

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