ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『男色大鑑ー歌舞伎若衆編ー』アンソロジー

井原西鶴が男色をテーマに描いた傑作短編小説集が今、BL漫画として現代に蘇る。江戸初期、大衆を熱狂させた歌舞伎若衆。身過ぎ世過ぎで、夜ごとに身体を金で買われながらも、真実の愛は決して裏切らない――。凛とした美しさが人々を魅了する、歌舞伎若衆の生き様をご覧あれ!! 

掲載作家:ARUKU、阿弥陀しずく、大竹尚子、雁皮郎、九州男児、黒井つむじ。眞山りか/(装画)ZAKK、(解説)敬愛大学教授 畑中千晶

感想:

井原西鶴の短編男色小説をコミカライズしているアンソロジーシリーズ。他に「武士編」が出ていますが、特に江戸男色ものに興味があるわけではないので、そちらは読んでいません。こちらについては阿弥陀しずくさん他数名、興味のある作家さんが執筆していたので買ってみました。

歌舞伎といえば元祖は阿国歌舞伎。そのヒットにより女性が演じるショーとしての女歌舞伎や女浄瑠璃が現れ、それが風紀を乱すとして禁止されると今度は美少年による若衆歌舞伎が生まれ、男色が風紀を乱すとしてこれもまた禁止されると、次は青年男性が演じる野郎歌舞伎が台頭する、という「文化を取り締まるのはきりがない」の代表例。そのうち前髪のある若い少年が演じていたがゆえに男色との親和性が高かったらしい「若衆歌舞伎」をテーマにしたのがこの作品集です。

男色自体おそらくそう珍しいものではなかった(「少年」自体が「男性」とは異なるやや中性的な存在として捉えられていた)時代とはいえ、若衆は歳を重ねれば成人男性になるし、彼らを誘惑する男だって基本的には嫁を持ち家庭を持つのが定め。ここで描かれる関係性も非常に脆く儚いため「不幸オチ」「死にオチ」がちょこちょこと。地雷な方はご留意を。

阿弥陀さんの作品は「売り物」である若衆の切なくも粋な生き様が作風とも合っていて良かったです。あと、やはり切ない系のお話をうまいこと笑いを混ぜて描いていた九州男児さん、やたらエロを頑張っていたARUKUさん、初読の作家さんだと黒井しずくさんは絵もお上手でお話も可愛らしかったです。全体的にちょっと絵柄に癖のある方が多い印象ですが、アクの強い舞台設定にはむしろ合っていたのでは。普段触れない世界観、という意味でも楽しい一冊でした。