ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『きこえる?』橋本あおい

リスナーの一人のままだったらこんな感情、知らずにすんだのに――…。 内気な性格の大学生・樹の唯一の趣味は、ラジオDJの湯之口新(通称・ユノ)がパーソナリティを務めるラジオ番組を聴くこと。そんな樹はある日、街の本屋でユノと遭遇する。思い切って彼に声をかけると、何故か一緒にお茶をすることに。緊張しながらも「ユノさんみたいに話し上手になりたい」と打ち明けると、ユノは優しく励ましてくれた。それ以降、ユノからの言葉を胸に少しずつ自分を変えていこうとする樹。また会えるかもしれない、と思いもう一度あの日の本屋に行くと、そこにはユノがいた。少しずつ近づく距離に、二人にはそれぞれある感情が芽生えていくが――…。 

収録作品:「きこえる?」、描き下ろし(マンガ11ページ+4コマ)、あとがき

感想:

久々に読む橋本あおいさん。淡く繊細な表紙も素敵です。内気な大学生が憧れのラジオDJと出会うことで少しずつ変わっていく過程と、メディアを通した憧れが現実の恋愛感情に変わることで出会う難しさ。いずれも丁寧かつ軽やかな描きぶり。橋本さんといえばセクシーなお話の印象が強かったのですが、こういう焦れ焦れな距離感を描いてもお上手なんですね。好きな一冊になりました。

樹の場合はそれがラジオ番組だったわけですが、何かもやもやを抱えているときに、ラジオや音楽や本や映画や、そういったもの(を通して、それを作る人)に対して特別な、「これ(を作る人)だけは自分をわかってくれる、救ってくれる」という思いを抱いてしまうことは決して珍しいことではありません。ただ、あくまでそれは一方的な理想を膨らませているだけで、実際に関係が双方向になってしまえば、思うようにならないことは山ほど出てきます。

で、おぼこい樹と対照的に、湯之口はズルさも独占欲もある大人なわけで。純粋に自分を慕ってくるコミュ障男子が「自分のアドバイスを聞いて」人間関係に前向きになることは嬉しい反面、自分以外との距離の近さを知れば嫉妬して引き離したくなるアンビバレンスに思い悩むあたりもツボでした。

本編はキス止まり(でも橋本さんの描くキスはエロい)で、描き下ろしがその先のサービスエピソードになっています。

 

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