ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『肉食獣のテーブルマナー』草間さかえ

【お前、俺を慰めようなんて百年早いよ――】
安藤はゼミの先輩・水沢が苦手だ。しかしある日、水沢が双子の兄に秘めた欲望を持っていることを知ってしまう。秘密を共有した二人の関係は?
その他、兄・亮司のラブストーリーも同時収録!! 珠玉の短編集。 

収録作品:「キス、シロップ」「肉食獣のテーブルマナー」「ここだけのハナシ」「春の指先」、あとがき、カバー下(「ここだけのハナシ」番外マンガ)

感想:

草間さんの短編集です。「肉食獣のテーブルマナー」は表題作ですがむしろ前後編の「キス、シロップ」の番外編に近い立ち位置。「キス、シロップ」は、騒音をきっかけに真上の部屋に住む兄弟の兄と交流を持つようになった会社員の話。性嗜好に無自覚で真面目でおぼこい双子の兄・亮司が可愛いです。一方やや大人びた双子の弟・聡司(見た目的にはこっちのほうが好み)は素直な亮司とは似ても似つかない複雑な性格の持ち主で、その秘めた欲望を描いたのが「肉食獣のテーブルマナー」。まあある意味亮司の純朴さは罪作りというか鈍感ゆえの暴力性というか。読んでいるとどんどん聡司が不憫になってしまいました。そして不憫な聡司のフラストレーションの受け皿となって、貰い事故的に不憫な安藤。最終的には安藤くんも含めみんな幸せになってくれそうな気がして良かったです。

「ここだけのハナシ」は隠れゲイのデザイナー・大河内が、ふとしたことから財務管理担当の三田を同類ではないかと思い、好意を持つようになるお話。しかし三田が周囲に隠している嗜好は、大河内の思っていたものとはちょっと違っています。というわけで、ちょっとかみ合わない凸凹な2人の初々しい感じが実に良かったです。そして何より、草間さんの描く猫耳美少女キャラを見ることができたのも新鮮でした。

「春の指先」は幼馴染同士の長い恋の行く末を描く読み切り。まこっちゃん、かわいいよ、まこっちゃん

草間さんは本当に大好きで、多分「やぎさん郵便」の澤(ドSとみせかけてのオカン攻め)と有原(黒髪不憫受けとみせかけての、素直と鈍感ゆえの魔性。最終的には花城まで翻弄される始末)はこれまで読んできたBLでも一番好きなカップルです。「カオス」シリーズの壬生谷と白川をはじめ、「真昼の恋」他年下ワンコ攻も素敵だし、他にも……。というわけで、今回の短編集も楽しかったですし、今後の作品も楽しみです。最近は幅広いジャンル描ける作家さんが一般に活躍の場を広げても、BLでも引き続き描き続けてくれることが増えたような気がしていて、ファンとしてはうれしい限りです。……昔は一般に行くとそれっきりさよならな印象が強かったですよね。