ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『恋に落ちるわきゃないし』猫田リコ

結婚相談所に勤務する向井が偶然担当することになったのは、6度連続で見合い相手から断られているバツイチ子持ちの婚活男・高室。悪条件と態度の悪さが今までの失敗の原因だと思っていた向井だったが、そこには思いもよらない理由があることを知り……。それぞれの事情により長く恋愛から遠ざかっていた2人の恋の行方は――。

収録作品:「恋に落ちるわきゃないし」「真夜中よりすこし前」「恋に落ちてすぐの頃」

感想:

新刊読んでないので旧作を読み返して書きます。BLは周期的に集中的に読んだり離れたりを繰り返しているわたしですが、猫田さんはちょうどデビュー後しばらくがBL読む期に当たっていたので『ロロロロマンチック』とか『イエスマスター』とか大好きで何度も読み返した記憶があります。たいへん勢いのある、台詞回しに特徴のある方で、「耽美」な印象がまだまだ強かった麗人の中では若干異彩を放ちつつ、(今思えば初期の絵などかなり拙いのですが)強烈な魅力の作家さんでした。とはいえそれが突飛なストーリー展開や描写に結びつく面もあり、良く言えば個性、悪く言えばアクの強い作家さんという印象でした。

最近の猫田さんは、いい感じにアクの強さが抑えられ、オーソドックスなラブストーリーを描く方になっている印象で、その代表作がこの『恋に落ちるわきゃないし』だったり『泣き顔ミマン』だったりします。当初の強烈さと比べれば多少凡庸な印象は否めないものの、ラブストーリーを読ませるという意味ではまっとうな変化ではないかと、個人的には好意的に捉えています。

妻を亡くした心の傷を引きずっている結婚相談所のスタッフと、やはり妻と死別した子持ちカバン職人の相談者。事情あり、背負うものあり(少なくとも高室は)の2人は恋愛や結婚の現実を知っていて、失うことも知っていて、それでも恋することを止められない。多少唐突な展開もなくはないですが、理性と感情の間で揺れ動き、エゴで相手を傷つけたかと思えば正直な思いを止められなくなったりもするのは我が儘だけれど、恋愛ってそういうものなのかもしれません。世慣れているはずの2人なのに、恋の始まりには結局ぐだぐだになってしまう番外編「恋に落ちてすぐの頃」も、高室を待ちわびる向井、チャイムを押せずいたずらにタバコの本数が増えていく高室、いずれも可愛くて萌え萌えでした。

濡れ場は白抜き&トーンでぼかしですが、それでも構図や表情でなんとも言えない色気を感じさせるのも猫田さんの魅力です。そしてこのコミックスは、併録の「真夜中より少し前」(本を介して交流を深めるリーマン×コンビニ店員)も可愛いのでオススメです。

 

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