ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『ロマンティック上等』森世

 派遣社員の計は、まだ見ぬハイスペックな恋人を求めて自分磨きに余念がない。残業はせず仕事もテキトーにこなして、定時過ぎたら料理教室に直行。たかぶる熱を収めたい時は、幼なじみでセフレの次継の優しさに甘えて、Hに没頭する日々。ある日、合コンで理想通りの超絶イケメンエリート・駅人に出会うも、彼は複数の恋人を囲ってハーレムを作るような奴で!?

地位か? それとも愛か? 先の読めないトライアングル・ラブ!!

収録作品:「ロマンティック上等」「楽しい2年後」「芽生えの11年後」、あとがき

感想: 

こちらも「オメガバース・プロジェクト」の作品です。ビッチ受(※苦手)か〜、と思いつつ地雷覚悟で読み始めたのですが、ビッチに見せかけた健気受で、なかなか楽しいメロドラマでした。そうか、オメガバースって「アルファ」と「オメガ」が身分差に苦しみつつ番として運命をともにするのが醍醐味かと思っていたのですが、「運命に逆らう」のが醍醐味のパターンもあるんですね。

計と次継の、運命を受け入れているようで逆らい続けている関係を「恋愛感情」と認めるまでの長い物語。そして計にとっては「理想の相手」でありながらも愛ある関係が築けそうにもない駅人。この駅人の、食えない下衆なんだけどどこか憎めないキャラクターは素晴らしくて、作者が駅人が一番好きだと言っているのも理解できます。当て馬はこのくらい魅力的で、このくらい振り切っているのがいい!

「番」ができてしまった「オメガ」が、番以外と関係を持とうとするときの苦しみというのが実にドラマチックで、正直普段だったら受が苦痛を感じて嘔吐しながら抱かれるなんてありえないのですが、本作については苦しんでも一緒になりたい強い気持ちが伝わってきて、過酷な濡れ場にも十分な説得力がありました。

やはり男の出産には抵抗がないわけでもないです。ていうか、あえてBLに出産の要素を入れるなら別にBLじゃなくて良いのでは、と思う気持ちは変わりません。が、それとは別の次元で、「こういうお話は、いいな」と思える作品でした。まあ結局なんでも、細やかなツボと地雷のどこに何がはまるかは読んでみるまでわからないし、筆力次第で地雷が乗り越えられる場合もあるってことなんでしょうか。