ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『こわがらないで、そばにいて』ロング

パティシエの閑と小説家の幸彦は、お互いを大切に想い合う恋人同士。ある日、幸彦から「無かったことにしましょう、最初から」と突然の別れ話が。動揺する閑はその話の最中、階段から落ちて気を失ってしまう。意識を取り戻したとき、閑は幸彦のことを忘れていて――!? 

収録作品:「こわがらないで、そばにいて」「(描き下ろし)こわがらないで、そばにいて 番外編」

感想:

上手くいっていたはずの恋人同士なのに、受が感情を拗らせてしまったことから別れを切り出し、もめている最中に攻が階段から落っこちて記憶喪失。紆余曲折はありますが、結局はスタートに戻ったも同然の「何も起こっていない」マンガです。ですが、スタートに戻るだけの話を丹念に描いているという意味で良作だと思いました。人間関係ってちょっとしたことで綻び、それを繕って元の場所に戻る(絆は強くなっているのかも)ことの繰り返しなんですよね、きっと。

幸彦の気持ちの揺れや、記憶を失った閑の「幸彦が大切にしている指輪の送り主」への嫉妬など感情面はとりわけじっくり丁寧に描かれており、ところどころ挟まれる回想シーンで過去の2人の関係が徐々に見えてくる展開も上手いです。まあこの手の話で常に思うのが、勝手にうじうじして身を引く前に一度腹を割って話し合え! ということなんですが、それだとドラマにならないですしね。全体としては、絵も綺麗で画面作りも丁寧で、今後にも期待できる作家さんだと思います。

ちなみに以下のアンソロジーに、この作品の番外編ショートが収録されています。