ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『ふたりぼっちの食卓』井上ナヲ

フリーターの夏生がある日、家の前で拾った謎めいた青年・啓介。おいしそうに食事する姿に惹かれ、なりゆきで面倒を見ることに!! 食事のお礼にセックスするものの、名前以外は知らないままの不思議な関係──けれど啓介から、「一日にひとつずつ、お互いのことを教え合おう」と提案されて!? 表題作のほか、幼なじみへの行き過ぎた独占欲を描く、男子高校生の恋の目覚めも収録。 

収録作品:「ふたりぼっちの食卓」「さよならヒーロー」「(「ふたりぼっちの食卓」番外)甘い日々」、「(電子限定描き下ろし番外編)ふたりぼっちの食卓」

感想:

初読の作家さんでしたが、白黒のコントラストが印象的で、独特の雰囲気のある良作。セリフも控えめで、どちらかといえば間で読ませるタイプの作品なので、好みに合うか気になる方は事前の試し読みをおすすめします。

表題作は、ややコミュニケーションに難あり(+過去の恋愛に恵まれない)な夏生が、拾った男と生活するうちに少しずつ人との関係構築に向き合えるようになる過程が丁寧に描かれています。派手さはないのですが、夏生の寂しさや再び誰かに心許すことへの逡巡がじんわり伝わってきて、フリーター一人暮らしらしい生活感の描写なども絶妙です。夏生が啓介に惹かれた理由は「ご飯を美味しそうに食べるから」。ふたりで食卓を囲む場面が何度も出てきて、決して凝ったものを食べているわけではないのに、人と向かい合ってご飯を食べるっていいなあ、としみじみ。あと、畳部屋に布団ってけっこう濡れ場的に萌えます。

併録「さよならヒーロー」も幼馴染高校生の可愛いお話です。BLで間を取り持とうとしてくるちょっと変わった女子キャラクターって、あまりいい感じを持たないことが多いのですが、作品自体の雰囲気が淡々としているからか、このお話の佐伯さんは割と好き。