ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『バビルサの角』夏糖

逃げないで、正直に自分と向き合いたいんだ駈はシェアハウスの上の階に住む大学生・大地に片思いしている。年下でノンケの大地に告白するつもりなんて毛頭ない。知り合いくらいの距離感がちょうどいい。しかし友人として距離をつめようとした大地に思わず「お前が好きだから、親しい友人にはなれない」と想いを告げてしまう。それを機にシェアハウスを出る決意をする駈だが……。傷付きたくない、孤独になりたくない、でも幸せになっていいのかもわからない、悩める男たちの心を丁寧に描いた珠玉の一冊。 

収録作品:「バビルサの角」「(描き下ろし)バビルサの角」、あとがき

感想:

ゲイがノンケに恋している話ですが、BLにしては珍しいくらい枯れている駈は冒頭より諦観の極み。深く思い煩うことも、勝負に出ることもなく「知り合い以上友人未満」の距離感が一番楽で良いのだと自分に言い聞かせている状況。おそらく性的嗜好の件で家族と諍いがあったりと、過去にいろいろあるのだと思いますが、ゲイバーのバーテンとして働きつつも浮いたところもなく、ひたすら地味な生活描写が続きます。

いかにも男ばかり住んでいそうなボロい和室のシェアハウスで、家主はドテラ着用、出てくる食事もオシャレ感なし。バックグラウンドも生活感あふれているのと同時に、登場人物のキャラクターや行動も地に足ついた感じなので読んでいて落ち着きます。少しずつ関係性が変わり、中盤からは話に動きが出てきてからも、展開自体は王道ですが、やはり独特の空気感を気持ち良く感じました。

そんなに上手くはない絵も作風にはぴったり。本編は本当に恋の始まり程度で、キスすら……というお話なので色っぽさを重視する方には物足りないかもしれませんが、たまにはこういうゆったりしたBLも悪くないです。