ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『かわいいかくれんぼ』雁須磨子

高校教師・田中は、教え子・牛島の、クラスメート・家村へ向ける恋する瞳に気づいていた。それは田中自身も男性が恋愛対象だから――。牛島を見守る田中だったが、ある夜、牛島が田中の家に訪ねてきて……!? 

収録作品:「かわいいかくれんぼ」「君を見てると」「スキップ」「年が下の男」「ほんのり」、あとがき

感想:

雁須磨子さんを知ったのは遥か昔で、表紙だけ見て「なんかBLっぽくない絵柄の人がいるもんだな。ファン層どこだろ」と思ったのを記憶しています。しばらく経って何かのきっかけで『いちごが好きでもあかならとまれ。』を手に取り、それまでの自分の見識の狭さを責めたものです。その後活躍の幅を広げられていますが、一般も百合もBLも面白い。大好きです。

中でも気に入っている1冊が『かわいいかくれんぼ』。同類だからこそ「同性に恋心を抱くタイプの男子生徒」に感づいてしまう田中。高校一年生というまだ恋愛の経験も少なければ精神的にも未熟な年頃だからこそ、自分の気持ちを上手く隠すことも処することもできずにいる牛島のことが、マイノリティの先輩としてどうしても気になって世話を焼いてしまうんですよね。ノンケに恋する不毛さを知っているから内心クールに眺めているつもりで、一生懸命な牛島を見るとつい手を差し伸べてしまう。

好きな相手にゲイを疑われた牛島を元気付けようと「脈あるんじゃねーの」と軽口を叩いた田中に、牛島が必死の形相で「訂正してよ!」と詰め寄るところは特に好きな場面です。自分の性癖を認めきれていない必死さがとにかく痛ましいんだけど、あの年頃らしくてやっぱり可愛い。田中と牛島の、成長や環境の変化に伴ってゆるやかに変わる関係がシリーズ全体にわたって丁寧に描かれていて、実際のページ数より長い物語を読んだ気分になります。

しかし雁さんの世界は優しいですね。男子生徒同士が付き合いだしたところで、女子生徒の反応は「奪いたいけどヒゲ好きだったら叶わない、どうしよう!」ですから(まあネタと思われていたようですが)。そして牛島の当初の想い人である家村くんも実にいい男で、これはモテて当然という感じです。

基本田中と牛島の話シリーズメインの1冊ですが「年が下の男」はバイトの後輩x先輩もので、さらっと読める小品。2002年の話なのでちょっと絵の古さが目立ちます。