ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『月影』SHOOWA

真冬の夜に廓の前で拾われ、女郎達に育てられた清人。運命に身を任せながらも清人は担当医への想いを幼い頃から人知れず胸に秘めていた。伝えることが出来ぬまま、14歳で客を取らされ、16歳で店の稼ぎ頭となっていったが。ひとりの男の切ない愛を描いた表題二部作を含む、読みきり5編を収録した才知に長ける作家SHOOWA初の麗人コミックス!!

収録作品:「月影」「ホモ連戦隊守るんジャー」「罪隠し」「ジュグリノ・ジュグノ」「逃げ水」

感想:

何度読み返しても号泣で、久々に読み返してやっぱり滂沱の涙です。短編集ですが「月影」「逃げ水」はシリーズです。正直言って恐ろしいくらいクオリティが高くて、2本でこれだけ描き切れるものかと驚かされるくらいです。遊郭の前で拾われた孤児清人が主治医への思いを秘めつつ男娼となり、その後親切な客に身請けされてから戦争を経て、彼の人生を描き切るこれら作品は本当に素晴らしいです。

この手の話を描き切るのは勇気もいるし筆力も入ります。あえてタイトルは出しませんが、人が歳をとって死ぬまでを描いたBLは漫画小説問わず幾つか心当たりがあり、そのいずれもで作者に「どうしても描(書)かずにはいられなかった」というパッションを感じます。しかし一方で、読者から見て萌えロマンスもののある意味タブーかもしれない老衰死までを描き切った意義と満足感を得られる作品はそう多くありません。そして、数少ないその満足感を得ることができた作品が、このシリーズだったりします。

清人の人生の中で一番印象に残るのは彼の初恋の相手である伊部医師ですが、その後彼が出会う人々についても、時代特有の説得力と様々な愛情のかたちを感じることができ、(通常一対一の関係を好むわたしですが)違和感はありません。(以下ネタバレOKな方は反転→)さらに、このシリーズで清人はあまりBLでは一般的ではない「女性と結婚し、子孫を残し幸せに死ぬ」のですが、それも、家族に恵まれなかった彼の生い立ちや、人を愛しては失ってきた日々を思うと、納得も祝福もできるのです。近代を舞台にした時代物が好きで、その中でもこの作品は、ジャンル的には特殊ともいえる内容を真正面から描き切った貴重なものだと思います。

で、まあ、表題作シリーズについては基本(辛気臭いのは心底無理だという方以外は)評価するでしょう、して当然でしょう、というくらいのクオリティがあるわけです。「罪隠し」も表題作とは異なる現代ヤクザものですが、しっとりシリアスな雰囲気は共通しています。問題は一冊の作品集として見たときに、シリアスでメランコリックな話の間に挟まれている謎のハイテンションギャグ作品をどう見るか、という点でしょうか。

戦隊もののエロパロである「ホモ戦隊守るんジャー」、SFエロコメディ「ジュグリノ・ジュグノ」、いずれもストーリーなどありませんが、独特の空気とテンポはあります。わたしは嫌いではありませんし、そもそもSHOOWAさんの他の作品も知っているので、「こういうのも描く方よね」で終わります。しかもSHOOWAさんの絵が大好きなので、正直話が多少アレでもこの絵があれば満足できる部分もあったりします。が、シリアスな作品との落差についていけない方もいるでしょうし、ここまで両極端な作品を同じコミックスに入れることの是非はあるのかもしれません。その辺りはこの作品集の難しいところかなと思います。