ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『若様は官能小説家』ナツ之えだまめ(イラスト:桜城やや)

 

若様は官能小説家 (角川ルビー文庫)

若様は官能小説家 (角川ルビー文庫)

 

こんなの詐欺だ!清廉潔白なお坊ちゃまだったあいつが「官能小説家」―!?父親の店を継ぐため、10年ぶりに帰国した料理人の蓮は、かつては兄弟のように過ごした地元の名士・伊勢谷家の嫡子である京吾と再会する。「蓮が好きだ」と必死に告白してきた少年は、今や人気ベストセラー小説家に成長していた。当時の事など忘れた風の伊勢谷に安堵した蓮だったが、とある事情で彼に負い目を作る羽目に。そんな蓮に伊勢谷は「官能小説のモデルになって欲しい」と告げてきて…!?

収録作品:「若様は官能小説家」「若様は恋人」、あとがき、ギャラリー

感想:

というわけで、幼馴染焼けぼっくいもの+地方の名家x庶民の身分差もののハイブリッドです。伊勢谷家と街との関係や、小原の営むイタリア料理店のあれこれなど、設定や描写はしっかりしています。久々に再会した2人の気まずさと距離を詰めていく感じも、まあ悪くない。けれど読み進めながら読者は皆そわそわすることでしょう。

ーー「官能小説家」っていつ出てくるの?

通常このタイトルに惹かれて買うBL読者というのは「官能小説家である攻から執筆協力の名目で半ば無理やりアレコレされてしまう」場面を予想し、というか期待していると思うのですが、少なくともわたしはそうなのですが、いつまで経っても「官能小説家」の「か」の字も出てこない。伊勢谷は確かに小説家ですが受賞歴があり若干スランプに苦しんでいるらしき文芸作家。官能小説家はどこなの? といまいち集中できないまま読み進め、その単語が出てくるのはなんと物語も半分を過ぎてから。そして読者が期待したアレコレは、想像したより遥かに場面が少なく控えめ。

執筆のためにイタリア料理についてかなりお勉強されたそうで、その成果は余すことなく活用されています。むしろ活用されすぎて、イタリア料理関係の描写はたっぷりしっかりなのに、官能小説家描写が薄くちょっぴりになってしまっているのが残念。BL小説として出来が悪いわけではないのですが期待したものと異なる違和感が残ってしまいました。むしろ官能小説家設定なしに普通に「若様」とイタリア料理人の恋物語にして、タイトルもそっちに寄せたほうが良かったのではないでしょうか。なんかこう、ケチャップ気分で洋食屋にナポリタン食べに行ったら、本格イタリアンのコース出されちゃったような「美味しいんだけど、食べに来たのはこれじゃない」感が拭えない作品でした。

ちなみに角川ルビー文庫Kindle版を読むたびに気になるのは、挿絵をギャラリー形式で巻末にまとめて載せている点。電子書籍だと表紙以外のイラストが割愛されている場合も多いので、挿絵を収録してくれているのはありがたいのですが、この方式はちょっと見づらいです。文中に挿絵を挟み込むオーソドックスな形式に改まると嬉しいのですが。