ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『課長、結婚しましょう!!』せいか

妻に先立たれ、一人娘と暮らす課長・青木の趣味は、お菓子作り!作ったお菓子を会社で配っていたら、本社から出向してきたエリートでいつも無愛想な部下・水野が食いついてきた!! 実は水野は、強面なヤクザ顔のせいでスイーツ好きなのを隠して生きてきたのだ。親睦を深めようと自宅に招待し、色とりどりの手作りお菓子を食べさせたとたん「課長、結婚してください」と射殺すような瞳でプロポーズされて!?

収録作品:「課長、結婚しましょう!!」「水野くんのオカシな世界」「(描き下ろし)課長、特訓しましょう!!」、あとがき+電子限定番外編(4ページ漫画「続いて行くそれぞれの幸せ」)

感想:

1冊すべて、強面エリート後輩(隠れ甘党)x男やもめ課長(趣味:製菓)+娘ちゃんの笑って泣ける素敵でおかしなお話です。ちょっと古臭いというか今ばやりの少女漫画っぽくない絵柄のBLコミックの場合、表紙を見て躊躇し、買うと大当たりというパターンが多い気がしますが偏見でしょうか。これもいい意味で裏切られた作品です。

昔は攻か受、もしくはその両方に子どものいるBLって苦手でした。当時目にすることが多かったのが「子どもの目の前ではやめてっ! ああっ!」みたいな作品が多かったせいかもしれません。萌えるっちゃ萌えるんですけど、よっぽど幼い子ならともかく、やっぱり「いやそれ虐待」と頭をよぎってしまうんですよね。しかし最近のBLはジャンルもすっかり成熟して、もちろん非現実としての無体なエロスを追求する作品(好きです)もある一方で、家族の在り方まで優しく細やかに描いた漫画や小説も多く見かけるようになってきました。

愛する妻を失った心の穴を埋めるために、妻の遺した製菓用品での菓子作りに没頭する青木。強面仏頂面で人付き合いも苦手、人目を気にして甘党であることをひた隠している水野。2人が近づくきっかけがお菓子なのはもちろん、青木と亡妻の一人娘・智恵がちょうど体型を気にして父の作るお菓子離れ(=父親離れ)する時期にさしかかっているという設定も含め、「お菓子」を軸に人間関係や心の動きをうまく描いていたと思います。

本編「課長、結婚しましょう!!」では、水野にかき回されながら、妻との別離から立ち直り娘の自立への一歩を受け入れようとする青木がメイン。続く「水野くんのオカシな世界」では、顔が怖くてズレてる水野がなぜそんな風になってしまったのかが悲哀と笑いで語られた上で2人の関係が深まっていき、1冊としてのバランスも良。

なお、やることはやってますが、エロいというよりは微笑ましいです。顔が怖いはずの水野も、おっさんのはずの青木も、最終的にはどっちもカッコよく可愛く見えてくるんですよね。

電子版限定ということで描き下ろされていた4ページ漫画がまたすごく良かったので、もし紙版だけお持ちでこの番外読んでない方はちょっと損している気がします。宣伝するわけではないですが、機会があれば電子版もご覧になると良いのでは。