ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『催眠術入門』カシオ

大正はじめ――。高等学校時代からの友人・林周に会いに、彼が勤める大学に足しげく通っている龍彦。その日も周の研究室を訪れ、世間で大流行している「催眠術」の話をすると、周はインチキに決まっていると言う。そこで、彼を実験体として、龍彦が催眠術をかけてみることになる。――すると、龍彦が予想もしなかった姿を周が見せ……。

収録作品:「催眠術入門」「三月怪談」「円城寺伯爵の犯罪」「淡雪事変」あとがき

感想:

カシオさんの絵柄はやや特徴的なので、長い間読まず嫌いしていました。確かコミックシーモアの読み放題で『三上くんのおもちゃ』を読んだのが最初だったと思いますが、これも「読み放題だったから」他のめぼしい物を読み尽くした挙げ句に手を出したもの。ですが思いのほか良くて「もっと早く読めば良かった」と後悔しました。ものすごくしっかりしたストーリーを描かれるわけではないのですが、とにかく心の動きや表情が繊細で、ふにゃふにゃ頼りなく思えていた画風も改めて見れば作風にマッチしています。台詞回しや構図についてもかなり巧い方かと。

中でも一番好きなのがこの『催眠術入門』。うすうす感じていた近代浪漫もの好きの性癖をはっきり自覚させてくれた一冊でもあります。金持ちの放蕩息子(後に軍人)とお堅い大学講師。学生時代からの友人同士の2人が催眠術をきっかけに秘めてきた思いを解き放ってしまう、というのが大筋ですが、序盤は近づいたり離れたりの駆け引きじみたストーリーがちょっとした事件と絡みつつ軽いテンポ良く進み、後半で一気に話がシリアスな方向に舵を切ります。近代ものの洋装好き(スーツに帽子を被る習慣は是非とも現代に復活して欲しいところ)としては、2人の服装も眼福。

前半の「催眠術入門」「三月怪談」はリブレのアンソロジーに掲載されたものですが、後半は未公開作品&描き下ろし。しかも単行本は角川エンターブレインから出ているという奇妙なつくりからは出版までになんらかの経緯があったのかと疑念をかきたてられますが、とりあえず一冊にまとまっているのは嬉しいです。

なお、濡れ場は白抜きメインの一部グラデーショントーン処理(なにやってるかはわかる程度)。シリーズ第1話である「催眠術入門」のみ、リブレの18禁アンソロジー(『エロとろR18 ver.SS』※紙書籍は完売。現在は電子書籍のみ一部販売サイトで取扱い)を購入すれば修正の薄いものが読めますので、興味があってかつ年齢制限をクリアしている方はどうぞ。

 

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