ぬかるみ読書録

電子書籍で読んだ商業BLの感想をぬるぬると更新するだけのブログ。

『ワンダーリング』一穂ミチ(イラスト:二宮悦巳)

 

ワンダーリング (ディアプラス文庫)

ワンダーリング (ディアプラス文庫)

 

七つの年にラスベガスのカジノで拾われた芦原雪。自分を拾ったシンガポール華人の令輝から徹底的にルーレットを仕込まれ、雪は一流の腕を持つまでになる。厳しい育ての親とは対照的に、“雪”に名前をつけ、無条件に甘やかそうとするのが令輝の腹違いの弟、藤堂だった。雪にはそれが煩わしくて仕方ない。現在は藤堂が社長を務める東京の公営カジノで働く雪だが、どんなに素っ気なくしても藤堂の態度は変わらず…?

収録作品:「ワンダーリング」「ワンダーナイト」、あとがき(※表紙&挿絵イラストあり)

感想:

昨日感想を書いた『ノーモアベット』のシリーズ作品です。

続き物ではなく、前作の脇キャラだった藤堂と芦原の話(ちょっとだけ一哉と逸も出てきます)なので、単独で読んでも問題ないですが、「カジノが解禁された日本」というやや特殊な設定の作品なので、順番に追った方が入りやすいでしょうか。

設定とポーカーの説明にウェイトを割いた分、人と物語の書き込みに物足りなさを感じた『ノーモアベット』でしたが、こちらは文句なしの超超良作。シリーズものなので前作で説明した設定を今回ある程度簡素化できた点や、題材とするゲームがルールや進行が複雑なポーカーと比べて、球を落とす場所を当てるだけというある意味単純なルーレットに変わったのも功を奏していたように思います。「名付け」にはじまり、藤堂の兄を絡めてのエピソードの数々は現在の2人の関係性や心情のややこしさに違和感なくつながり、作品への没入をより助けてくれます*1

わたしは一穂さんの描く小生意気なキャラクターが大好きなので、口が悪く一筋縄でいかない雪は好みど真ん中。大人すぎて思い切りの足りない攻と素直じゃなくて生意気な受が翻弄したりされたりする姿には、終始にやにや笑いが止まりません。二宮さんのポップでかわいらしい挿絵も、作品イメージにぴったりでした。

同じ著者の作品を続けて読みすぎると、慣れというか食傷というか、良いものも良さを十分に感じられなくなってしまう傾向がわたしにはあります。それでは勿体ないから気に入った作家は少しずつ読むようにしているのですが、この作品が良すぎて未読の一穂さんの作品も一気に読んでしまいそうな自分にあわててブレーキをかける年はじめ。

 

↓↓ 一穂ミチさんの他の作品の感想も書いています ↓↓

*1:一哉と逸の場合は「ハンバーグ」以外のエピソードが弱く、現在の彼らの結びつきを十分説明できていない気がしました。